個人事業主と法人、どう違う?

これから独立を考える方や独立をして間もない方は、個人事業主がいいのか法人にした方がよいのか迷われる方も多いのではないでしょうか。今回は、個人事業主と法人の制度面や税制面などから違いをご紹介し、エンジニアにとってどのような選択がよいのかをご紹介いたします。

個人事業主と法人の違い

開業手続きの違い

個人事業主の開業手続きは、税務署に開業届を提出するだけです。印紙等も必要ありません。
開業して1ヶ月以内に提出することとなっていますが、もし提出を忘れてしまっても事業所得を確定申告をすることで個人事業主と判断されます。開業届を提出する際に屋号の記入欄がありますが、記入は任意です。開業届は、郵送でも受け付けてもらえるので、書類に記載し郵送すれば、開業手続きは完了です。

※個人事業の開業届
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm

一方、法人の設立は少し工程が多くなります。
法人には、株式会社や合同会社などいくつかの形態があります。
どの形態を選んだとしても、法務局へ登記をし、税務署に法人設立届出書を提出します。
法人の場合、届出書に記載した業務内容しか行えません。
また、いくら会社の売上が増えても、会社と決めた報酬額しか受け取れません。
報酬額の変更は年1回のみと決められています。

※法人登記の申請書
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/COMMERCE_11-1.html

税制の違い

個人事業主は、個人の所得税や住民税、個人事業税を納めなければなりません。
所得税や住民税は、収入から経費と控除額を差し引いた課税対象額全額に対して課税されます。
一方、法人になると、売上から経費を差し引いた法人の所得に対して法人税がかかります。
人件費も経費に含まれます。
また、法人から給与所得を受けた従業員は、その給与額から控除額等を差し引いた所得に対して所得税や住民税がかかります。
個人事業主、法人どちらの場合も売上が1,000万円を超えた場合は、消費税がかかります。

このように書くと、法人の場合は、法人税と個人に対しての所得税と2重で課税され、負担が重くなるのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、一概にそうとは言えません。日本では所得税は累進課税のため、所得が多いほど税率が高くなります。課税所得が4,000万円を超えると、最高45%もの税率が課せられます。1,000万円でも33%となっています。しかし法人税率は、19%もしくは23.2%と売上に応じて2段階です。いくら売上があがっても23.2%より増えることはありません。

※所得税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
※法人税率
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm

年金・保険の違い

個人事業主の場合は、一般的には国民年金と国民健康保険に加入することになります。
住んでいる自治体で手続きをし、通知に従い毎回自分で支払います。
国民年金の保険料は一律で月額16,340円(平成30年度)ですが、国民健康保険の保険料は自治体や年齢により金額が異なります。
例えば、東京都練馬区に在住の35歳、年収8,000,000円の場合、国民健康保険料の年額は762,274円です(平成30年現在)。
つまり国民健康保険料は月額63,523円、国民年金と合わせると毎月約80,000円の負担となります。

※国民年金の保険料
http://www.nenkin.go.jp/service/kokunen/hokenryo/20150313-02.html
※国民健康保険料
http://www.kokuho-keisan.com/

法人の場合は、法人単位で厚生年金と健康保険に加入します。
従業員が代表のみの1人会社でも厚生年金と健康保険に加入しなければなりません。
こちらは、厚生年金、健康保険どちらも年収に応じて支払額が決まります。

※厚生年金の保険料(平成29年9月~)
http://www.nenkin.go.jp/service/kounen/hokenryo-gaku/gakuhyo/20170822.files/1.pdf
※健康保険の保険料
http://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat330/sb3150/h30/h30ryougakuhyou4gatukara

法人の場合は、企業と個人で保険料を折半します。
会社員の場合は個人としての保険料負担は全体の半額ですが、独立して法人化した場合は全額自分で負担することになります。

経費の違い

個人事業主でも法人でも、領収書をもらえば何でも経費にできるイメージがあるかもしれません。しかし実際に経費として認められるのは事業に関わる活動に関するもののみです。

しかし、個人事業主と法人で大きく異なるのが、給与と生命保険などの保険料、福利厚生費です。
法人にとって従業員に支払う給与は経費になります。
また、生命保険を法人として掛けた場合、種類により経費として認められます。
個人事業主も生命保険料控除がありますが、年間12万円までとなります。
また、意外と知られていませんが、福利厚生に関する費用も異なります。
個人事業では福利厚生費は基本的に認められていません。健康診断や人間ドッグも経費には計上できず、医療費控除の対象にもなりません。

このように、制度の違いから個人事業主と法人では経費の範囲が異なるのです。

※定期保険の保険料の取扱い
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5361.htm
※生命保険料控除
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1140.htm
※人間ドックの費用
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shotoku/05/09.htm

取引上、信用に差が出ることも

企業によっては個人事業主と契約できないという企業もあり、残念ながら法人格の方が信用力が高いと言えます。
法人として口座を開設したりクレジットカードを発行できるということは、金融機関の与信を通っているという証明になります。
また、法人となればコーポレートサイトなどで事業の確認ができる場合も多く、総合的に信用力が増すのです。
エンジニアの場合、クライアント企業へ常駐する形であればあまり差が気にならないかもしれませんが、請負の仕事をする場合には、法人で受けられる仕事と個人として受けられる仕事では、その種類や単価に違いが出る可能性もあります。
一般的に、法人の方が開発に関する料金設定も高めの場合が多いためです。

個人事業主と法人、節税できるのはどっち?

個人事業主と法人の違いがわかったところで、エンジニアの場合はどちらがお得なのでしょうか。先に紹介しました、税金と社会保険料の面から、どちらが節税につながるのか、年収800万円を例に、見てみましょう。

個人事業主の税金

年収:8,000,000円
────
所得税と住民税の合計:1,329,000円
社会保険料の合計:958,354円
(東京23区在住扶養なし、経費年1,200,000円の場合)

法人の場合の税金

法人売上:8,000,000円
役員報酬:5,900,000円
─────
法人税:12,000円
住民税:71,500円
給与にかかる所得税と住民税:512,700円
社会保険料:1,590,480円
(東京23区在住扶養なし、経費年1,200,000円の場合。社会保険料は会社負担・個人負担を合算)

法人の場合は、役員に支払う報酬も経費となります。
ですので、売上から報酬を引き、さらに税金や経費を引いた額が、課税対象額となります。
社会保険料は会社と個人で折半負担となる制度ですが、ここではでは合算して計算しています。

個人事業主と法人の税金と社会保険料の額を比較すると、下記の通りとなりました。

個人事業主の税額 2,287,354円
法人の税額    2,186,680円

年間100,000円程度、法人の方が支払いは少ないという結果となりますが、法人の場合は、役員報酬の設定金額により税額が変わります。
生活に必要な金額を報酬として払い出し、残りの売上は会社に残しておくことで、所得税と社会保険料が抑えられるため、大幅な節税になることも知っておきましょう。

この場合、注意したいのは「原則として役員報酬の設定は年1回しか変更できない」という点です。
役員報酬は、税法上、基本的に期首3か月間にしか変更できないことになっています。
法人を設立した時や、年度を締めたタイミングでよく考えて設定するようにしましょう。

法人の種類による違いはある?

法人と一言で言っても、株式会社や合同会社、一般社団法人などいくつかの形態があります。
エンジニアのみなさんが法人を検討する場合は、株式会社か合同会社が一般的な選択肢となります。
今までご紹介した個人事業主と法人の違いで取り上げた項目で、株式会社か合同会社かによる違いがあるものは、「開業手続き」の点のみです。

株式会社と合同会社の開業手続き

株式会社と合同会社の設立時での大きな違いは、その費用にあります。
設立登記に必要な「設立登記税」が、株式会社の場合は150,000円、合同会社が60,000円となります。
また、株式会社の場合は、さらに「定款認証手数料」というものが50,000円かかります。
開業時にかかる費用が、株式会社は合計200,000円、合同会社は合計60000円となり、合同会社の方が140,000円安くなります。

開業後の違い

開業後には、どのような違いがあるのでしょうか。

会社運営の自由度

株式会社の場合は、利益や権限の配分はその出資額に応じて決めるという決まりがあります。また、株主総会や取締役会の開催も決められており、株式会社の役員任期は最長10年です。
一方、合同会社では、利益や権限も自由に設定でき、取締役会などの規定もなく、役員の任期も決められていません。

会社を運営していく上での自由度は、合同会社の方が高いといえそうです。

決算公告の有無

株式会社は毎年決算公告の義務がありますが、合同会社にはありません。
決算公告は、決算確定後に貸借対照表などを官報かWEB、日刊新聞などに掲載しなければならないというものです。掲載するために費用がかかるため、ここでも株式会社では毎年コストがかかります。

株式公開の有無

将来は、事業を拡大し会社を大きくしていきたいという場合には、株式公開を視野に入れている方もいらっしゃるでしょう。株式を公開し、幅広く資金調達をするのであれば、株式会社でなければなりません。

信用度に差がある

制度面での違いをご紹介しましたが、実際に取引をしていく上で重要となる「信用度」にも違いがあります。
合同会社の方が知られておらず、社会的な信用も低いのが実情です。
株式会社の方が、会社設立に時間も費用も掛かる上、会社運営上も決まりが多く、信用度にもつながっていると言えるでしょう。

個人事業主か法人かは、やりたいことと年収で決めてみては

個人事業主と法人の制度面や税制面を中心にその違いをご紹介いたしました。
エンジニアで独立する場合、業務委託で仕事を受けることが多く、その場合は、実務面では個人事業主でも不便を感じることは少ないかもしれません。

開業後の違い

ただ、ある程度の年収が見込める場合は、節税の観点から法人化を検討してみてもよいでしょう。
また、将来的に自分で事業をやりたいという場合には、それを見据えて法人を設立するという選択もあります。エンジニアから法人を設立する方々は、自分の事業を育てつつ、他社の案件に参画するような働き方をしている場合も多いです。

迷った場合は、独立相談できる行政窓口やエージェントに相談をしてみるのがおすすめです。

法人設立に向けた具体的な相談であれば、行政などが行っている起業相談窓口が利用できます。無料で専門家に相談できる場合もあるので、自治体などをご確認下さい。

まだ設立するかどうか悩んでいる、独立自体も悩んでいるという場合には、エンジニア市場を理解しているエージェントに相談してください。
現在のスキルやキャリアから今後のキャリアプランも含めてどういった選択肢があるのか、市場感を含めて相談可能です。

エミリーエンジニアでも随時ご相談を受け付けています。
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